■プロフィール

渡辺 努 先生

1964(昭和39)年、埼玉県深谷市生まれ。東京農業大学第二高校では野球部に所属し、同期の阿井英二郎さんとともに、甲子園出場を果たした。日本体育大学ではソフトボール部で活躍。1987(昭和62)年、姉妹校の星野女子高等学校(現:星野高等学校)に赴任。ソフトボール部を指導し、15度の全国制覇を成し遂げる。2013(平成25)年、川越東高等学校に着任し、野球部の監督に就任。趣味はスポーツ観戦や読書。

――先生は星野高校時代に女子ソフトボール部を指導され、全国制覇も成し遂げています。2013年に川越東高校に赴任され、野球部の監督となりましたが、そうした変化に戸惑いはありましたか。

もちろんルールも違いますし、対象が女の子から男の子に変わったという違いもありますが、スポーツの指導という点では大きな違いはないと思っています。相対的には女の子の方が最初から最後までしっかり見て細かく声をかけていくことが必要で、男の子の場合はうまく促すことができれば自分たちでやってくれるかなという面もありますが、生徒によって個性は違いますので「女の子はこう、男の子こう」とは言い切れないですからね。ただ、系列校ということもあり、両校の生徒の気質は似ていると思います。どちらもまじめな生徒が多い印象ですね。野球部前監督の阿井とは高校の同級生で、一緒に甲子園に出場しました。卒業後も交流は続いていて、野球部の様子も聞いていましたので、戸惑いというほどのことはなかったですね。

――阿井さんが作り上げた野球部を引き継いだわけですが、赴任された当初はどんな印象でしたか。

部室に入ったときに掃除が行き届いているのを見て、厳しい指導をしてきたことがすぐにわかりました。プロで活躍していた選手ですが、人間教育の面もしっかりされていると思いましたね。私はそこまで厳しくないので、どこまで継承できているかわかりませんが。ただ、野球へのアプローチの仕方が阿井と私で違うのは彼もわかっていて、引き継ぐ際には「違う方向からやると面白いんじゃないの?」と言ってくれました。私は「野球をスポーツとして楽しむ」ことを重視しています。野球は素晴らしいスポーツですが、勝つことも負けることもあります。もちろん練習は苦しい部分もありますが、楽しんでやることで、みんなで感動を味わうことができたらと思って、指導をしています。うちは、いわゆる「根性野球」とは違うのかなと思いますね。

――現在の野球部はどのようなチームですか。

キャッチフレーズとしてよく挙げるのが「臨機応変」ですね。野球は状況に合わせて変化できるかどうかが、とても大事なスポーツです。たとえ相手が強いチームだとしても、「相手がこう来るなら、こうだ」と、次にどんなボールを投げてくるのかなど、相手が何をしてくるかを予測することができれば、対応がしやすくなります。もちろん難しいことではありますが、生徒には「そういうところでは負けるなよ」と言って、日ごろから観察眼や勝負勘を磨くように指導をしています。野球界では「見逃し三振をすると怒られる」という風潮があるのですが、私は「意図があって、配球を読んだ結果としての見逃し三振ならしょうがない」というスタンスです。意図があるのであれば、結果を怒ることはしません。

生徒の考える力を伸ばすため、ミーティングにも力が入る


――生徒には野球を通じてどんなことを学んでもらいたいですか。

私自身もそうでしたが、団体スポーツをすることで学べることはたくさんあると思います。団体生活では、お互いを思いやらないと、やっていけません。私が「ああしろ、こうしろ」といちいち言わなくても、団体生活を送る中で、そうした相手を思いやる力は自然についていくと思っています。また、うちの学校は特待制度があるわけではありませんし、あくまで「文武両道」。川越東の生徒として、その精神をしっかりと自覚してもらいたいと思っています。学校の始業前は部の伝統として掃除だけを行い、朝練はしません。放課後の練習も16〜19時までで19時を過ぎたら新しいメニューには入りませんし、最低でも週に1回は必ず休みをとります。ちゃんと勉強時間をとらなければならないので、試験期間はまったく練習しません。ほかの学校の野球部の先生は「とんでもない!」とおっしゃるかもしれませんが。

――野球強豪校としては非常に短い練習時間だと思いますが、そうした中でも結果を残しているのはどんな要因があるのでしょうか。

歴代の先生が築き上げてきてくれた土台があったことが、まずは大きいですね。どんなスポーツもすぐに強くすることはできませんから。また、野球部はグラウンドをほとんど単独で使わせていただいていますし、雨天練習場やブルペンなど施設も充実しています。環境面の充実が強さに直結するわけではないと思いますが、非常に恵まれた環境であることには、とても感謝しています。

広大な室内練習場など恵まれた練習環境

――野球部の活躍にOBも期待を寄せています。

野球部を指導するようになって一番変わった点が、「応援の数」かもしれません。ソフトボールはどうしても注目度が低いので、全国大会の決勝でもそこまで応援の数が多くはありません。野球部の試合にはいつもたくさんのOBの方々や父兄の方々が足を運んでくれて、応援をしてくれています。これまでなかなか直接、感謝の気持ちを伝える機会がありませんでしたので、この場を借りて御礼を申し上げたいです。いつも応援ありがとうございます。

――初の甲子園出場が現実的な目標になってきていますので、OBの注目度もこれからますます上がっていくかと思います。

「甲子園出場」は、高校球児の半分ぐらいは本気で考えている目標だと思います。なぜなら、野球は意外性の幅があるスポーツだからです。意外性があるから、運や勢いがかみ合ったときに、チームとして培ってきた「土台」があれば、上まで勝ち進める可能性があります。そうした土台の力はもうついていると思います。また、意識の高い子どもたちも入ってきてくれているので、「甲子園」がより身近に考えられるようになってはいると思います。現実にはまだクリアできていない目標なので、あまり大きなことはいえませんが。

――最後にOBへのメッセージをお願い致します。

今回取材を受けて、改めてOBの方々の期待を感じることができ、とてもうれしく思います。生徒は限られた練習時間のなかで、ベストを尽くしているので、そんな姿をぜひ見てもらいたいですね。生徒は応援されることが力になりますので、もしお近くにきた際には、練習を見に来ていただければうれしいですね。秘密練習はしていませんし(笑)、見学は大歓迎です。

OBの方々の応援が生徒の力になると感謝している