■プロフィール

新田悟詞

1969年7月30日生まれ。埼玉県比企郡小川町出身。川越東高校を創立直後の2期生として入学。卒業後、東京理科大学工学部第一部経営工学科に入学。大学卒業後は1993年すかいらーくグループに入社し、1999年独立。現在はカワラリゾート株式会社代表取締役社長として、2004年「おがわ温泉 花和楽の湯」、2010年「なめがわ温泉花和楽の湯」、「カワラスポーツクラブ」をオープン。

――まずは高校時代のエピソードについて教えてください。

ええと、正直言うとあんまり覚えていないんですが(笑)、当時はまだ新設校だったこともあり、今よりも縛りが多くて先生も厳しかった記憶があります。二期生だったので、今ほど受験への意識はなかったかもしれませんが、新設校の和気藹々とした雰囲気もあって楽しかったですよ。蔵王へのスキー旅行も当時はスクールバスを使っていて、雪山で立往生したのも良い思い出です(笑)

――印象に残っている先生はいらっしゃいますか?

良い先生はたくさんいましたね。丹沢先生も面白かったし、思い出すのは名前は出てこないんだけど、数学の先生。厳しかったけど、自分は好きだったかなあ。定規を使ったんじゃないかというくらい綺麗な字でX軸Y軸を黒板に書いていたのを覚えています。数学の本質的な部分を教えてくれる先生でした。(後ほど詳しく聞いたところで田中康夫先生と判明しました)当時の先生達とは年齢的に近かったので、言いたいことを言えるというような関係があったようにも思います。

創立30年を超えた歴史の中で、設備の充実とともに数多くの名物先生を輩出している。

――学生時代に培った経験でいい影響を及ぼしているようなことはありますか?

大学時代のアルバイト経験辺りから社会との接点が出来てきて、塾講師のアルバイトをした時に人の前で話をすることを覚えました。大学卒業後はすかいらーくに入社し、そこで7年働きました。そこで覚えた接客やアルバイトの管理は今の仕事に繋がっている部分が大きいです。

――すかいらーく時代のお話をもう少し聞かせて下さい。

私はすかいらーくの中でもバーミヤン(注:すかいらーくグループの中華レストラン)の所属でした。なぜバーミヤンを選んだのかという背景には、最終的に「起業したい」という目標がありました。もともと実家も自営業だったこともあり、大学生だった平成3年に私が会社の社長となってスポーツクラブの経営を始めました。それを何とか活かしながら起業したいなと考えていました。

大学卒業後に入社した当時、実はバーミヤンは経営がかなり厳しい状態で、入社したばかりなのに聞こえてくるのはネガティヴな話ばかりでした。また、現在と違って、ラーメンも一杯1200〜1500円ほどで、エビチリも一皿3000円ほどといった高級中華料理店のような値段で、中々売れず借金も膨れ上がっていました。そんなもう潰れるかもしれないという状態だったら、「思い切ったことをやってみよう」ということになり、店舗の路線を全て変えてしまおうという方針になりました。

そこで考えられたのが、「バーミヤンのラーメンが一杯いくらだったら家族4人が笑顔になれるのか」ということです。それに対して、「500円切れたら凄いですよね〜」なんていう案が出たところから、「じゃあ500円切るラーメンを開発するか」という流れになりました。さらに、「飲み物を一杯いくらで売ったらいいか」についても、「注いでから一つ一つ持って行くのもなかなか大変なんですよ」「じゃあ勝手に持っていってもらおう。子どもも何杯も飲めるから嬉しいだろう」これが今でこそ当たり前の「ドリンクバー」になりますが、これもあの当時に誕生したものです。この値段であれば家族4人で5000円でお釣りがくる、そんな中華料理店は他にないというところからバーミヤンは中華料理を安価にする路線に変更しました。路線転換したバーミヤンを多摩ニュータウンに出店した際は、連日朝の10時のオープンから閉店時間となる夜の2時までずっとウェイティングが掛かるような大盛況となりました。現在は安価な中華料理店はたくさんありますが、その先駆けとなったかと思います。

そこで「企業を苦しくしているのは自分達であって、お客さんに目を向ければ治るんだ」ということを学びました。 そういったことを仕入れて作ったのがこの花和楽の湯ですね。

新田さんの経営するカワラリゾートが2004年にオープンした「おがわ温泉 花和楽の湯」。

――「起業したい」という思いがかねてからあったということが興味深いです。

もう中学生の頃からそんなことを考えてましたよ。小学校の卒業文集には将来の夢に「大きい会社の社長になりたい」ということを書いていましたし。父親が自営業している親の影響もあったかもしれません。 ただ、親は政治家か医者にしたかったようですが(笑) 、自分の人生だから自分で働いて自分で好きなものを買えるようになりたかったという想いがありました。

天然温泉掛け流しの露天風呂と共に上質な食事と接客を提供する「泊まれない旅館」をコンセプトとしている。

――起業をするに当たって、具体的にこういうような仕事をしたいと目標はあったのですか?

すかいらーくのバーミヤンに入社したのにも理由があって、将来の「店の経営」するために就職するんだと考えていたためです。バーミヤンではアルバイトの育て方、モチベーションの上げ方など、本当にたくさんのことを学びました。また、バーミヤンで実践したのは、「店の中でチームを作る」ということでした。5〜6人を学生中心、主婦中心などに分けて、その中からリーダーを作り、自分が店長として管理することで組織作りをしていました。そのチームにそれぞれの目標を与えて、各チームを動かしました。また、わざと他の人が見える所で会議を行って、そこで労働時間や売り上げの具体的な話を出し、問題点を提示し、チーム毎の目標も発表させました。このような店の育て方は他のバーミヤンの店舗にも広がり、各店長が「どうしたらいいの?」と私のところに相談に来るようにもなりました。いわゆる稲盛和夫さんの「アメーバ経営」を実践した形です。やはり会社は組織があってこそのもので、特に「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」なんですよね。この方式は今の花和楽の湯でも取り入れています。ですので、ウチのアルバイトは各チームごとで利益率までを意識した仕事が出来ています。

笑顔のおもてなしが自慢の花和楽の湯スタッフ。

――アルバイトにも数字を意識させるということですね。

そう、利益率を意識させないと何でもOKということになっちゃうんだと。売り上げを上げれば良いというものではなく、重要なのは対投資効果を意識した上で考えられているかということです。儲けられない限り給料は上げられないということを理解させた上でチームを動かしています。

――バーミヤンで培った部分は大きかったんですね。最後に在校生に向けたメッセージをいただきたいのですが。

私は中学高校の時はスポーツも勉強も中途半端な人間で、自分に自信がなかったんです。大学生時代の塾講師のアルバイトでこうすれば自信を付けさせられるということが分かってきてから、世の中を意識し始めたように思います。確かに有名大学に入学出来ることも立派なことですが、最終的には社会に出て何をやっているかです。

そのために大事なのは自分自身が本質を見る目、見極める目を養うことだと思っています。勉強であれば、単純に詰め込むだけでなく、数学や物理であればその本質を意識した上で学ぶことが重要なのではないでしょうか。様々な情報が出回っている世の中ですから、どれが本当でどれが嘘なのか、そしてどこに本質があるのかを見極めなければなりません。自営業の社長は特にそうです。社長が地域の経済を担っているのだから、アルバイト含めた社員に経済の本質を伝えなければなりません。

熊本の黒川温泉をヒントにしたというその情緒溢れる風景は数あるスーパー銭湯とは一線を画した魅力がある。

例えば、こんなことです。今日本のGDPは約500兆円あります。そして国債が約1000兆円。国民1人に換算すると約800万の借金を背負っている状態になります。このような現状について、テレビなどで経済学者がネガティヴなメッセージを発していますが、果たしてそれが本質でしょうか?ここに隠れた本質があります。日本の個人の資産の合計は1700兆円、また、国や企業が内部留保しているお金が800兆円、日本には、金融資産は総計2500兆円あると言われています。これを家計に置き換えてみてください。収入が500万円、借金(住宅ローン)が1000万円、貯蓄が2500万円だとすると、この家庭に返済の問題があると思いますか?

――いえ、全く問題ないです。

そう、問題ないんですよ。問題ないことを問題あるように言うのが、評論家の仕事。そしてその事を信じて、井戸端会議をしてしまうからより一層、経済が回らない。ただ、問題なのが日本の個人資産は65歳以上が約7割を握っています。しかし、現在の高齢者はあまりお金を使いたがらず、これでは経済が回りません。ではどうするかというと、国がいろいろな投資(公共投資等)をしてお金を回し、経済を活性化する。そこで発行されているのが国債です。この国債は、高齢者の方々が持っている1700兆円を担保にそこから持ってきている。つまり、貯蓄していて使われないお金を出来る限り、必要としている世代へ回しているのです。必要としているのは、子育て世代ですからね。これらを知るだけでも考え方が変わりますよね。これが本質を知るということなんです。ビジネスモデルも自分の目で確かめたものからしか生まれてこないものだと思います。ですから、若いうちから色々な経験をしてみてください。好奇心旺盛に色々なものをどうなっているんだろう視点で見ていき本質に辿り着き、そこからこういう風になったら嬉しいなあ、面白いなあということやれば良いんです。楽しくないことばかりやってもつまらないですし、自分が面白いと感じていれば他の人がそれを感じてついてきてくれます。

――なるほど。本質を見極める力、そして問題を解決するための組織作りと実行力が大事だということですね。本日は非常に面白いお話を色々とお聞かせいただきありがとうございました。

(おがわ温泉「花和楽の湯」にて)

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新田さんのご厚意により、本記事を印刷して「おがわ温泉 花和楽の湯」または 「なめがわ温泉 花和楽の湯」へとご持参いただいた方につきまして、お一人様一回限り入浴料を無料にてご案内していただけることになりました。(2017年3月31日まで有効)

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